問題社員への対応方法

社会保険労務士(社労士)の立場として、ご提示いただいたセミナー講義録(問題社員類型別対応・最新判例解説)の内容を、実務上の重要ポイントと法的リスク管理の観点から体系的にまとめました。


問題社員対応の実務と最新判例のポイント(社労士向け要約)

1. 能力不足社員への対応と解雇・指導の基本

証拠確保の重要性

  • 録音の徹底: 指導の言った・言わないを防ぐため、AI議事録だけでなく、必ず「元の録音データ」を残すことが重要である。裁判ではAIの要約ではなく一次データが重視される。
  • 具体的指導の記録: 抽象的な「頑張れ」ではなく、具体的な行動改善目標とその達成度合いを記録する必要がある。

業務改善指導(PIP)と解雇のハードル

  • PIPの実態: 外資系などで使われるPIP(業務改善計画)も、法的には「目標設定→観察→評価・指導」の繰り返しに過ぎない。これを実施したからといって即解雇が有効になるわけではない。
  • 職務能力の特定: 会社側が「能力不足」を主張する場合、対象者が担当している業務がその契約の「中核的業務」であること、または他の業務もできないことを立証しなければならない(タグ事件参照)。一部の業務ができないだけでは解雇は無効となるリスクが高い。

試用期間中の本採用拒否

  • 解雇権濫用法理の適用: 試用期間中であっても、解雇(本採用拒否)は客観的・合理的理由が必要。
  • 時期の判断: 試用期間(例:3ヶ月)の途中で見切りをつけて解雇(例:1ヶ月時点)するのはリスクが高い。期間満了まで指導を尽くし、それでも改善しない場合に満了をもって雇用終了とするのが安全である。
  • 解雇予告: 期間満了での終了でも、解雇予告手当を支払うか、30日前の予告が必要。トラブル回避のため、1ヶ月前頃から「このままでは本採用できない可能性がある」と伝え、退職勧奨を行うのも実務的な選択肢となる。

2. 勤怠不良・職務専念義務違反への対応

私的行為(スマホ・ネット利用)の立証

  • 職務専念義務違反: 勤務時間中に業務外の行為(私用スマホ、SNS、株取引等)を行うことは懲戒事由となり得る。
  • 具体的実証の必要性: 「あいつはサボっている」という評判だけでは不十分。ログ解析や目視記録により、「いつ」「どの程度の時間」「業務にどのような支障が出たか」を会社側が具体的に立証する必要がある。
  • 判例の傾向:
    • 福岡不動産事件: 私的取引の時間が不明確で、業務への具体的支障が証明できず会社敗訴。
    • ドリームエクスチェンジ事件: 7ヶ月で5万回以上の私用チャット(1日2時間相当)に加え、内容が顧客情報の漏洩や誹謗中傷を含んでいたため、懲戒解雇が有効とされた。
    • ナハン流通センター事件: 「月300〜600時間サボっていた」という主張は現実味がなく、立証不足で会社敗訴。

3. ハラスメント(パワハラ・セクハラ)対応

事実調査のポイント

  • 「漫画の吹き出し」レベルの特定: 「怒鳴られた」「無視された」といった抽象的な訴えでは不十分。「いつ、どこで、誰が、どのようなセリフ(一言一句)を言ったか、どのような動作をしたか」を特定して調査・記録する必要がある。
  • 言い分の聴取: パワハラの場合、業務指導としての側面(動機)もあり得るため、加害者の言い分(なぜその発言をしたか)もしっかり聴取する。一方、セクハラに正当な動機はない。

処分決定時の留意点(公平性と相当性)

  • 過去の処分との均衡: 同種の事案で過去に「注意」で済ませていた場合、今回いきなり「解雇」にすると無効になるリスクがある(鹿島建設事件)。
    • 対策: ハラスメント厳罰化へ方針転換する場合は、全社への通達や研修を行い、「今後は厳しく処分する」と周知して過去との区切りをつける必要がある。
  • 被害者への対応: 被害者が調査結果に納得せず、執拗に会社や経営陣を誹謗中傷したり業務妨害を行う場合、被害者側であっても解雇が有効となるケースがある(モルガン・スタンレー・グループ証券事件)。

4. メンタルヘルス不調者への対応

初動対応と休職

  • 受診勧奨・命令: 様子がおかしい場合は、まず専門医の受診を促す。就業規則に根拠があれば受診命令も可能だが、まずは休職制度を利用させて治療に専念させることがセオリー。
  • 解雇の回避: いきなりの解雇ではなく、休職期間満了まで回復を待つ手順を踏むことが重要(日本ヒューレット・パッカード事件)。

労災申請への対応

  • 事業主証明の慎重な判断: 社員が「パワハラが原因」として労災申請をした際、安易に事業主証明欄に署名すると、民事訴訟(損害賠償)で不利になる恐れがある。会社の認識と異なる場合は、証明を拒否するか、会社の言い分を記載した別紙を添付するなどの対応が必要。
  • 私傷病と懲戒: 業務起因性のある精神疾患(労災認定レベル)の期間中に暴言等の非違行為があった場合、病気が原因であれば懲戒処分が無効となる可能性がある(セントラルインターナショナル事件)。ただし、この高裁判決の論理には議論の余地がある。

5. テレワーク・在宅勤務をめぐる問題

出社命令の可否

  • 原則: 労働契約で勤務地が「自宅」に限定されていない限り、業務上の必要性があれば出社命令は可能。
  • 判断枠組み: ①業務上の必要性、②労働者の不利益、③公平性などを総合考慮する。
    • 関西電力送配電事件: 業務上の必要性が認められ、出社拒否に対する処分は有効。
    • IDH事件: 社長の個人的な感情(嫌がらせ目的)での出社命令は、業務上の必要性がなく無効。

6. SNS投稿・情報漏洩への対応

SNSによる誹謗中傷

  • 名誉毀損と表現の自由: 会社の悪口であっても、「公共の利害」「公益目的」「真実性(または真実相当性)」があれば違法性が阻却される可能性がある。
  • 削除請求: 投稿内容が真実でない(例:パワハラで病院送りになったと書かれたが、因果関係が証明できない)場合、削除請求や損害賠償が認められる(ICTイノベーター事件)。

情報漏洩と退職金

  • 不正競争防止法の壁: 「営業秘密」として保護されるには、アクセス制限など厳格な「秘密管理性」が必要であり、中小企業ではハードルが高い。
  • 就業規則違反としての対応: 法的保護が難しくても、誓約書や就業規則に基づき懲戒処分は可能。
  • 退職金の不支給・減額:
    • 小田急電鉄事件(従来の基準): 退職金全額不支給には「永年の功労を抹消するほどの重大な背信行為」が必要とされ、ハードルが高かった。
    • みずほ銀行事件(近時の傾向): 懲戒解雇の場合は原則不支給が可能で、例外的に功労を考慮して支給すべき事情があるかを判断する枠組みが示された。これにより、情報持ち出し等の背信行為に対して退職金を不支給とする判断がしやすくなっている。
  • 実務上の工夫: 退職金規定には「懲戒解雇された者」だけでなく「懲戒解雇事由に該当する行為を行った者」も不支給対象とすることで、自己都合退職後に発覚した場合でも対応できるようにしておく。

7. 降格・降給の法的留意点

権利濫用と権限の有無

  • 規定の整備: 役職を解く(降職)だけでなく、それに伴って「賃金を下げる」ためには、就業規則に明確な根拠と、具体的な「賃金テーブル(いくら下がるか)」が必要。
  • 日本HP事件・住友不動産ベルサール事件: 降格自体は有効でも、新賃金を決定する根拠規定が就業規則になかったり、周知されていなかったりした場合、賃金減額は無効となる。
  • 実務対応: 職務等級制度を導入する場合、等級と賃金額が連動するテーブルを整備し、必ず従業員に周知させておくこと。

8. 有期雇用(契約社員・定年後再雇用)の雇止め

契約期間中の対応

  • 期間中の解雇: 「やむを得ない事由」が必要であり、正社員の解雇よりもハードルが高い(労契法17条)。能力不足程度であれば、期間満了を待って雇止め(更新拒絶)を検討すべき。
  • 更新条項の変更: 更新限度(不更新条項)を途中で設ける場合、法令上説明義務があるため、しれっと追加するのではなく説明が必要。
  • 懲戒処分の活用: 有期雇用であっても、問題行動があれば都度指導・懲戒を行い、雇止めの合理的な理由となる事実を積み上げておくことが重要。

社労士としての総括コメント

問題社員対応において共通して重要なのは、**「就業規則等の根拠規定の整備」「具体的かつ客観的な事実の記録(証拠化)」**です。 特に、AI全盛の時代にあっても一次資料(生録音・ログ)の重要性は変わらず、むしろ高まっています。また、解雇や降給といった不利益処分を行う際は、プロセスの適正さ(弁明の機会、段階的な指導)と、過去の事例や他社員との公平性が厳しく問われます。

企業側には「感情的な即断即決」を避けさせ、必ずリーガルチェックを経た上で、段階を踏んだ対応をするよう指導することが肝要です。

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